中国現場カイゼン研究会のコラム

中国における製造業の生産性向上をデジタルとTPSでサポート。中国に製造にまつわるアレコレを書いてます。

マンネリ化と戦う中国企業の工場管理~ハイアールの事例~

おはようございます。

カイゼン研究会 中国支店の宇賀です。

 

中国の工場管理において

新たにルールや制度を決めても

1カ月も経つと形骸化してしまうということはよくあります。

 

なぜそれをしているかという本来の目的が忘れられ

「やりました」というチェック表や帳票への記入といった

表面上のことだけが業務として継続していく、、

さらに問題への対策としてルールが追加され

新たなチェック表が増えていくという流れです。

 

 

一見簡単に見えることを

継続する、習慣にすることの難しさは

中国における管理の難題であると

 

中国の代表企業でもある

ハイアールのトップ張瑞敏さんでさえそう語っています。

 

中国に進出している日系企業特有の悩みではなく

中国を代表する企業でさえそう感じているということです。

 

 

では、中国企業では

どのような管理を通して

この問題を乗り越えてきたのでしょうか?

それを工場管理のヒントにしていこうと思います。

 

 

創業者がまだ健在の中国企業では

圧倒的トップダウンで、トップの指示が隅々まで

伝達されているというイメージを持ちます。

 

しかし、そんなイメージとは異なり

やはり規模が大きくなると

組織に階層が生まれ、

トップダウンボトムアップ、その両方が混ざりながら

管理制度の作り込みによって

その問題を乗り越えようとしている企業がほとんどです。

これは日本企業にも似ている部分です。

 

 

次にハイアールの事例を挙げていきますが

大きな違いはその管理制度にあります。

 

(1)個人の責任と賞罰の明確な規定と透明化

(2)インセンティブと即時実施(すべて金額換算)

(3)市場原理と競争の徹底

 

この3要素が日本の製造業では見られない

代表的な特徴となります。

 

 

■どんな制度となっているのか?

 

作業者だけでなく管理者も含め

すべての工程、作業に明確な基準・標準

毎日何をするべきかという役割と責任が文書化されており

手帳として個人に事前に渡されます。

基準や目標に対しどの程度でするべきか

達成度で給与がどのくらいか、賞罰はどういう時に受けるか

ということが記載され、責任とそれに伴うインセンティブ

事前に知ってから仕事をするという仕組みです。

 

これにより(1)や(2)が従業員にとって明確にされます。

 

 

これに基づく日々の管理はOEC管理と呼ばれ

 

・企業目標→個人目標

(日本企業で言うと工場方針から個人方針に落とし込むようなモノをさらに細かく定量的に実施したもの)

・日清管理

(個人の目標に基づき日々結果を記入する)

インセンティブ設計

(上記の内容と実績に基づき賞罰を決定)

 

この3項目が組み合わされ日々運用されています。

 

 

特徴的なのが

日清管理と呼ばれるもので

作業者日清と管理者日清に分かれています。

 

■作業者の場合

毎日の終業後に

生産数量と決められた作業単価

そして7つの点検項目によってその日の給料が決まります。

(生産量、品質、消耗品、金型、安全、躾、労働規律)

 

ここで面白いのが

自分で点検するということと

毎日即時に

出来高×作業単価+賞罰で給料が決まるということです。

 

もちろん班長のチェックは毎日入りますが

自ら点検し、振り返り、賞罰を記入することで

当人の反省を促し、点検結果がもっと良くなるためには

どんな問題があるかということを考え記録させるためだそうです。

 

この日々の集計が月の給料になるので

作業者も適当には済ませないという構造のようです。

 

毎日自分の価値を金額換算しながら点検し

向き合うというのは相当厳しいことでもありますが

お金がかかっているので向き合わざるを得ないし、

責任もあいまいにしない文化が育ちます。

 

(不良が自分の作業のせいなのか、前工程のせいなのかで給料に違いがでるため、班長含め毎回責任を決め、問題を見過ごさない文化です。ある意味、異常発見を当事者が本気になってやる仕組みともいえます。)

 

 

■管理者の場合

管理者の仕事は3つに分けられています。

・日常管理(給料の25%)

・問題管理(同60%)

・創造性(同15%)

 

各項目に対して

管理者は2時間に1回必ず生産ラインで

問題を確認します。

 

そして

以下の5W3H1Sという切り口で管理、点検していきます。

どんな問題か(What)、問題はどこにあったか(Where)、いつ起こったか(When)、責任者は誰か(Who)、なぜ起こったか(Why)、同様の問題は他のところにもあるか(How much)、この問題が企業にもたらす損失はいくらか(How much cost)、どのように解決したか(How)、問題を解決した後、安全を確認したか(Safety)

 

ここでも、面白いし重要だなと思うのは

管理者の仕事はあくまで問題を解決することだ

ということを給料、インセンティブ面でも示していることです。

 

加えて、連続3回「問題なし」と記入すると

その職場の目標設定は甘いと判断され

目標の変更を強いられます。

 

まさに問題を発見できないことが

一番会社にとってロスだということを

これでもかと強調した制度となっています。

 

これも

上で述べたように、作業者が問題を自発的に顕在化、可視化してくれる環境があることがカギになっています。

このように問題解決をメインとして、自己審査し上司に提出します。

 

発生した問題に関しては

80:20ルールがあり、管理者や上級職位に80%の責任があるという原則があり、賞罰にも関わるため、解決の先延ばしが管理者や幹部に返ってくるようになっているのも特徴的です。

 

作業者も管理者も

点検結果と評価は毎日張り出され完全に透明化されています。

 

 

■競争意識を促す評価とインセンティブ

 

このように上司からだけでなく自己の点検、反省を通して

出てきた結果は給料だけでなく、格付けとしても反映されます。

 

 

毎日、

「最高作業者」と「最低作業者」という認定が行われます。

毎月その評価が集計され

・優秀作業者

・合格作業者

・試用作業者

という3段階評価がなされます。

 

賞罰で給料に差がつくだけでなく

優秀作業者

福利厚生、職業訓練等で優遇される制度設計となっており

管理者への応募も可能になります。

 

逆に試用作業者になってしまうと

改善されなければ解雇されるという厳しい立場に置かれます。

 

ちなみに「最高作業者」を3日連続で取ると

自分の成功体験や反省を朝会で演説、紹介する

という時間がとられます。

 

以前までは「最低作業者」もみんなの前で

反省を強いられていましたが

時代の流れもあり、個別教育に切り替えたそうです。

 

結果の違いによって

他の同僚との待遇が明確に変わり

それはみんなに見える状態となっている。

競争意識を持たすための動機付けに

かなりの力を注いでいることが分かります。

 

 

経営幹部・管理者についても

同じように毎月結果が張り出され

1年を通して集計されA~Eの評価がでます。

そして下位10%降格になります。

その10%は下からの応募になるという仕組みです。

 

上位層になっても

停滞、マンネリしていると

すぐに降格されるという制度設計となっており

むしろ作業者より厳しい制度になっています。

 

管理者や職歴の長い幹部層の

モチベーション不足などが日系企業では

よく悩み事として聞かれます。

 

それは中国企業でも同じで

安泰のポジションがそれを生み出してしまう

というのが中国での見解なのかもしれません。

 

上でも述べたように

作業者の問題であっても

80%は上位層の責任になるというルールです。

 

よくある

「言ったのに、部下がやらなかった」

というような他責での説明であったり

煙に巻くような報告で再発を繰り返す状態は

自分の賞罰と評価に影響にし、降格につながります。

 

ファーウェイなどでも同じような制度で

特に、権力や人間関係で安定した仕事ができてしまい、変化しなくても良い状態になってしまう管理者というポジションに向けて、厳しく制度設計されていることが分かります。

 

 

他にも京セラのアメーバ経営に似たような小集団に分けた管理会計の導入や、さらに進んだ官僚型階層組織の撤廃など、組織づくりにおいても5年10年単位で大きな変更を加え続けています。また別の機会で話せればと思います。

 

 

今回はハイアールを事例に

どのような制度管理をしているか

ということを見てきました。

 

このOEC管理もアメリカ、日本の製造業の学習から

中国ではどう管理するのが良いか?

というのを試行錯誤して出来上がったものです。

 

一つ一つの制度や目的は

日系企業でもあるものかもしれませんが

より詳細に、より明確に運用ルールが決められ

賞罰や競争のインセンティブが組み込まれていることが分かります。

 

その中国ならではの部分が

工場管理に活用するヒントになればと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。