おはようございます。
生産、物流現場カイゼン研究会の宇賀です。
今回は
世界で行われている製造業研究をもとに
カイゼンの学問的側面を見ていこうというテーマです。
学問や研究というと難しく聞こえるのですが
経営学の分野をすごく簡単に言うと
(1)成功している企業ではどんなことをしているのか?他と何が違うのか?(分析・具体化)
(2)その違いを一般化できないか?(理論化・抽象化)
(3)その理論を他に導入したらどんな効果がでるか?(実験と効果測定)
以上のようなことをして、
上手くいった理論がトレンドになったり企業経営の手法として認知されていきます。
製造業を振り返ると1980年代に大成功していたのは日本企業であり
欧米で日本企業の研究が盛んになりました。
それを理論化したものが海外ではリーン生産方式として
欧米ひいてはアジアで導入されていくという流れができたということです。
ここまではご存じの方も多いと思うのですが
この研究、特に(2)の理論化と(3)の実験は
その後も改良を繰り返し、研究が続いています。
日本では経営学の教科書でケーススタディとしてトヨタ自動車が紹介される程度で、
研究は終わったかのように紹介されていますが
世界では今も、
もっと良い理論、
導入する際の重要な要素(key factor)、
どんなステップで導入すると効果が出るのか?
ということが試行錯誤されています。
先日とある記事でこんなことが書かれていました。
https://president.jp/articles/-/75592
(古い記事を再編集しているようです)
https://www.mckinsey.com/capabilities/operations/our-insights/when-toyota-met-e-commerce-lean-at-amazon(記事で使われている引用)
要約すると
アマゾンなどアメリカを代表する企業が
トヨタ生産方式の良い部分を取り入れて成功しているという例を挙げながら、
流行りのアメリカ式経営ばかりを追いかけるのではなく、日本企業の強みを取り入れ、経営学の研究としても重要視すべきということが書かれていました。
たしかに、日本ではベストプラクティスとしての紹介で止まっていることが多く、論文の数でもトヨタ生産方式とLean Productionでは100倍の差があります。それだけ理論化や実証、適応が重視されていないということでもあります。
しかし
これらは日本が発祥なので、理論化しなくても感覚的に理解できてしまうということもあります。
説明が長くなってしまいましたが
では、世界ではどんな研究が行われているかということを見ていきます。
これは2021年に発表されたLEGOでの実証実験に関する論文です。
子供にはおなじみのレゴブロックを製造販売しているデンマーク企業です。
(英語ですが、翻訳アプリやChatGPTなどで簡単に翻訳できます。)
まず、論文のタイトルが面白いのですが
組織のパフォーマンス向上と組織学習についてです。
どういうことかというと
組織はそもそもコストダウンなどを目的として、改革を始めますが、方法や理論を学習しながら進める必要があります。
そのため、活動はしたいけれど、
短期的にはパフォーマンスは落ちるのではないか?というのが開始前の経営者の悩みとなります。
どこの会社でも悩んでしまう矛盾なのですが、そんな問題をテーマとして研究しています。
研究内容を簡単に要約すると
類似性のある業務を行っている2つの部門に対して、片方はリーンプラクティスの導入(介入部門)、片方には何もせず(対照部門)、のちの変化を比較します。約一年半にわたり、コストや品質に関する経営指標から、もっと詳細なKPI(納期遵守率、業務やり直しの数、業務プロセスの時間、人数の変化など)を比較しています。(パフォーマンスの変化)
そして、リーンプラクティス導入した部門は、有意にパフォーマンスが向上しているという結果でした。時系列で比較しても、導入前のコストとアウトプットは2,3%/年の増加が続いており、コストもアウトプットとも同じ変化率でした。
しかし、導入後のアウトプットは今まで同様2,3%/年の増加にもかかわらず、コストは13%/年の減少となり、コストとアウトプットの動きが習慣的に続いていた直線的でなくなったとの結果でした。
まず、すごく面白い部分は
この研究は組織のパフォーマンス向上に焦点を当てており
特にカイゼンの研究ではありません。
しかし、実験には当たり前のようにリーンプラクティスの導入という介入がされています。
つまり
組織パフォーマンスを向上させる取り組みの代表は、リーンの導入だろ、ということになっているということです。
そして、その当たり前が生産現場だけでなくホワイトカラーにも適用されているのです。
それくらい自然に、企業改革のツールとしてのリーンプラクティスが実施されています。
ちなみに、リーンプラクティスとは
簡単に言うと、トヨタの問題解決8ステップのことです。
(過去のブログ→https://kaizenlab.hatenablog.com/entry/2022/05/16/121618)
LEGOでの実験では
問題解決手法の学習と
ステップに沿って品質、コスト、時間の問題を解決し
A3一枚にまとめ、発表・報告するという手法の導入がされています。
詳細には書きませんが
導入プロセスに関しても
他の研究でも明らかになっている導入の際に必要なファクター
・トップダウンでの実施
・部門長以上の学習段階、問題解決活動への継続的参加及びコーチング
・活動によるアクションラーニングの継続
これらは各プロセスでしっかり守られています。
なので、
パフォーマンス向上のために
何をどのように導入するかということを研究している訳ではなく、
Howは既に今までの研究で理論化されており
導入した場合の効果に焦点が当てられている実験なのです。
企業と研究が協力しなければこの詳細な効果測定や項目選定はできません。
もちろん、
こういった経営手法の導入で一番研究が難しいのは、
実証実験であり、本当にその要因でパフォーマンスが良くなったのか?ということは、こういった実験の積み重ねをしていかないといけません。
今までも、
中国企業やインドネシア企業でリーンを導入した多くの企業のデータを集めてのパフォーマンスを測定し、効果があったという研究はありましたが、企業によって業種も環境もが異なっているという状況があります。
だから、この論文は同一企業内で、測定し比較したというところにも価値があります。
まだ、自然科学のように「実験成功です、これで証明されました。」というようになりません。社会科学なので、「リーンを導入すると必ずパフォーマンスが上がります」とはこの実験からも言えないのです。
しかし、この研究の世界では
実証を積み重ねながら、理論にフィードバックをかけていくことを進める段階まで来ているということが重要です。
(インドネシア企業の論文)
https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/17410381111102234/full/html
(中国企業の論文 有料)
長々と書いてきましたが
学問の分野において
組織パフォーマンスの向上に、カイゼンやリーンプラクティスの導入というのは世界の共通言語になっており、数々の実証研究が行われています。
実験の結果をもとに、
さらに理論研究にフィードバックされ、
日々、方法は進化しているということを知り、
カイゼン活動のヒントになればと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
P.S.
問題解決手法を組織に導入する
A3一枚の問題解決はこちら。
↓↓