中国現場カイゼン研究会のコラム

中国における製造業の生産性向上をデジタルとTPSでサポート。中国に製造にまつわるアレコレを書いてます。

工場における「総経理派閥」

おはようございます。

一般社団法人 生産、物流現場カイゼン研究会 中国支店の宇賀です。

www.a-solsh.com

 

「うちの工場の管理者にはこういうことができるようになって欲しい」

「今年こそは5Sを徹底するぞ!」

「工場として、今年は品質に力を入れていくつもり」

 

総経理や幹部の方々は

課題感やこうなってほしいというテーマを持って

その変化を実現させるために日々取り組まれています。

 

しかしその反面

工場としてやらなければならない仕事というのは毎年変わらずにあり、

大多数の従業員にとってはそれがメインの仕事になります。

すでに従業員の日常における行動基準は決まっているのです。

 

通常の仕事をしてもらいながらも(既存の基準)

テーマに沿って従業員を変化させないといけない

(部分的には基準を変えていく)

というのが重要な任務になってきます。

 

集団の中で

1.基準がどう生成されるか

2.基準がどう維持されるか

3.基準がどう変革されるか

 

前回は1について書きましたが 

今回は3.基準がどう変革されるか

について書いていきます。

 

 

 

ある時、お客様の工場で

総経理から班長までの役職を順番に

個別インタビューすることがありました。

 

総経理

「管理職の問題解決能力を向上させたい」

というテーマを持っていて

部長以下にも方針などで思いを伝えていると言います。

 

次に部長に聞いていくと

「納期遅れゼロ、コスト削減を実現するのがテーマです。

それを部下にも取り組ませています。」

という結果でした。

 

さらに課長に聞くと

「今年はサイクルタイムアップを目指しています。」

との話があり、新しい加工機を導入するので

どれだけ効率が上がるという説明をしてくれました。

 

 

おそらく、誰も間違ってはいないのですが

総経理がこの変化に力を入れたいと

伝えていたテーマと部下の動き、考えには乖離があります。

 

この場合は総経理は、通常業務の結果そのものではなく

それを実行するプロセスのレベルアップや変化を望んでいますが

 

部下は

通常業務の結果という

毎年変わらずやるべき仕事を重視しています。

 

そしてここに乖離が生まれています。

 

表面上はお互い

「わかってもらえている」

「要求に答えられている」

と思っていますが

大事にしているものはまったく違っています。

 

基本的に

総経理や幹部が考えていることは

工場内では少数派です。

 

大多数の人はうまく理解できていない

あるいは

理解しているが行動に移さないという

現状維持という態度を取ります。

 

役職や権限は上に行くほど上がりますが

組織の中でいうと少数派になっています。

 

その中で、前回も書いたように

正解がわからないテーマに関しては

周りの大多数の意見を総合して

その人の基準が出来上がっていきます。

 

 

今回の総経理のように

一度出来上がった集団の基準を変えていきたい

という時に、少数派としてはどうすればよいのか?

 

多数派だけが基準を作れるのであれば

変化させることなんて無理じゃないのか?

というのが着眼点です。

 

 

この問題に取り組んだのが

モスコビッチという学者です。

 

多数派によってのみ基準が作られるのであれば

社会は変化してこなかったはずだ。

実際は少数派が多数派に影響を与え

変化を起こすプロセスがあるはずだ。

 

という考えからある実験をしました。

 

―――――――――――――――――――

1グループ6人のメンバーに青色のスライドを見せて、

何色かを答えてもらうという単純な実験です。

 

明るさの違う6種類の青のスライドがあり

それを見せるたびに何色か答えてもらうということを

繰り返し行います。

 

6人中2人は、明るい青のスライドに対して

必ず「緑」と答えてもらうサクラを用意します。

 

そうして実験を繰り返すと

サクラがいない場合は

緑と回答した参加者0.25%でしたが

 

サクラがいた場合のグループでは

緑と回答した参加者8.42%にも上ったという結果でした。

 

さらにサクラの2名が緑と答えるスライドがその都度異なり

一貫性のない場合の結果は1.25%という結果でした。

 

この結果から

少数者が一貫した態度をとった場合に

多数派に影響を及ぼし態度を変化させることができる

と結論付けました。

 

さらに

サクラがいたグループに対して

実験の後に色覚検査を行うと

緑反応の知覚が増大しているという結果が出ました。

色の感じ方が変わったということです。

 

それ以前の実験で

サクラが多数派の場合少数派が意見を変えるという結果は

出ていました。

(みんなが緑と言っているから緑だろうという影響を受ける)

 

その場合は色覚検査では

何も変化がないという結果だったことから

 

多数派の影響は表面上の同調に過ぎないが

少数派が多数派に与える影響は同調ではなく

態度、意識自体が変化している

と結論付けられました。

 

―――――――――――――――――――

 

ここから何が言えるかというと

 

現状からの変化を求める少数派は

一貫した態度を取らなければ

多数派の行動は変えることはできない。

 

そして、

その変化の定義を明確にしておかないと

変化に気づけないということです。

 

最初の例に戻ると

 

まずは総経理の思っている

「問題解決能力の向上」とは

どういうことで、誰の何がどう変化したら

向上していると言えるか?

を明確にする必要があります。

 

そして、幹部にこの情報を理解してもらい

まず少数派を作り上げるということをします。

幹部が5人なら、そこをまず攻略しないといけません。

そして初めて意志を共有した少数派ができます。

 

そしてその少数派には一貫した態度を取ってもらいます。

 

例えば

日々起こる異常に対する対策は

定義された問題解決のステップに沿って

対策を導き出してから、実施するということが

能力向上の定義と決めたとします。

 

そのためには

まず少数派である幹部がその内容を理解しないといけません。

まずはその中で共通理解とスキルを会得してもらいます。

 

それができたら次に

それぞれの部署での異常解決にそのステップを持ち込みます。

幹部が目を通し、ステップに沿っていなかったら受理されないようにします。

内容の質というよりは、解決までのプロセスを見ます。

 

ここで一貫した態度を取らず

この場合は前と同じ対策だからこのステップは不要だよね

となると、今までと同じに戻ってしまいます。

 

できるできない、質の高い低いは置いておいて

一貫してそれを重視しているということを

伝え続けないといけないのです。

 

 

長々と書きましたが

集団の中で変化を起こしたいという時は

 

まずは共通理解があり、その部下に対しても一貫した態度を取れる

少数派を形成する、育てることが必要だという話をしてきました。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

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