中国現場カイゼン研究会のコラム

中国における製造業の生産性向上をデジタルとTPSでサポート。中国に製造にまつわるアレコレを書いてます。

「現場の再発防止がうまくいかない。。」というご相談について

こんにちは!

カイゼン研究会の宇賀です。

www.a-solsh.com

 

今回はQ&Aコーナーということで、普段、お客様からの返信やお悩み相談として寄せられる困りごとの中から特に数の多かった「再発防止がうまくいかない。。」についての相談を取り上げます!

 

■ご相談内容
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「当社の中国工場では不良品、設備停止、部品不足などが起因して生産が止まってしまいます。

 

現場も、生産を止めないために懸命にその原因を探し対応できているように見えるのですが、数日するとまた同じ内容の問題が起こり、また対応するといった具合で進歩が見えません。

 

その分残業で対応しているので未納までにはなっていませんが。

 

そこで、製造部に再発防止シートの作成(原因と対策の記入)を義務付けたのですが、やはり同じような問題への対応が起こっているように見え、なかなか改善が見られません。

 

問題が起こることは工場なので当たり前だと思うのですが何かうまく再発防止できるような方法はないでしょうか?」
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日本でもよく起こる問題なのですが、中国に来てからよりご相談いただくことが多いです。

 

①処置と対策の違い、中国の現場の仕事の定義

②問題解決力不足とそれを補うルール
③製造現場のみが問題解決するという誤解

この流れに沿って日本と中国の違いも含めて話していければと思います。

 

①処置と対策の違い、中国の仕事の定義

問題が起こったときの仕事の進め方として処置と対策の2種類があります。

処置は通常の生産に復帰させること。(生産量確保)対策は真因を見つけ再発しないようにすること。(再発防止)

 

例えば、設備に異物が入ってしまい停止した際の処置は、異物を取り除き生産を再開させること
対策は、異物が今後入らないようにすること(カイゼン=原価低減)となります。

 

この2点はどちらも大事なのですが、トヨタでは現場の仕事は納期を守った生産量と品質の確保と原価低減なので、処置と対策、両方が終わって初めて仕事をしたことになります。

 

しかし、中国の現場は納期を守り、生産量を確保することまでが仕事という認識が多いです。

 

処置までは普段の仕事として慣れていますが、生産量さえ確保できており、未納を出していなければ問題ではないし、仕事はできているということです。

 

仕事の終わりの定義が違うことが一つ大きなギャップとなります。

 

②問題解決力不足とそれを補うルール
仕事の定義に違いがあることを踏まえたうえで再発防止シートを導入して、仕事の終わり方を揃えたとします。

 

しかし、そこに記入された内容は今までもやっていた処置をそのままシートに言語化しただけのものとなるはずです。(処置と対策の違いが分からない)

 

先ほどの例で言うと

真因 異物の混入
対策 異物をブラシで取り除く
という再発防止シートになってしまいます。

 

本来、再発防止をするには問題に対して要因解析をし(なぜなぜ分析)真因を見つけそれをつぶして初めて再発しないための対策となります。

 

問題解決(カイゼン=原価低減)を今まで仕事としてしていなかった現場にとって当然、やり方も分からないし力もついていないので、できないのです。

 

なので、問題解決やなぜなぜ分析の教育をしたうえで再発防止シートのフォーマットを作りこみ問題解決のステップでしっかりとしたなぜなぜ分析ができるようにします。

 

そして出すべき対策もルール化します。

1.発生への対策 発生原因をつぶす対策
2.流出への対策 なぜ後工程まで行ってしまったかへの対策
3.停止への対策 なぜ悪いものを作る時に設備は停止しないのかへの対策
4.復帰への対策 停止してから通常に戻るまでもっと短くできないかへの対策

として対策の種類も決めていきます。

 

 

③製造現場のみが問題解決するという誤解
あるべき論を詰め込んだフォーマットを作り、ルール化するところまでしましたが、再発防止というのは問題解決であり、原価低減そのものです。

 

現場だけに任せる仕事ではありません。

 

技術員、品管、購買部、生産管理等が関わり合い能力不足を補いあいながら対策することが必要です。

もちろん、トヨタは現場が強いことが有名で問題解決の手法も熟知した管理監督者もおり何でも解決しているように見えますが、問題解決は上司とのマンツーマンの指導やQC活動の中で、練習、失敗をしながら身に付けてきたものです。

 

新人への講義もありますが、それを聞いたからすぐできるのではなく仕事として繰り返し行ってきた結果です。

 

そんなトヨタの現場でさえ問題が起こると設備課、技術員、品管に問題を共有しながら問題解決、再発防止を作り上げます。

(もちろん現場だけで対策まで出せる問題もあります。復帰への対策などは、製造部が考えないといけません。)

 

ましてや、中国で問題解決の能力がない現場にルールとフォーマットを作ったからこの通りやってみてと言っても、やはり、うまくいかないのです。

(うまくいかないし、面倒なので最悪は問題を隠すようになってしまいます)

加えて、中国製造業の組織体制、人材配置を見てみても製造部はずっと作業者を続けてきた人が課長までになっていたり、部長からは大卒の人を取ってきた人であったりと現場と管理者に能力的にもかなり差があることが多いです。

 

その中でも問題解決能力に理解のあるのは

品管や技術、ひいては間接部門の人の方が教育レベル的にも高い人が配置されていることがほとんどです。

 

なので、処置や問題を見つける部分は現場(製造部)で担えるのですが、対策を出すというステップは問題解決能力が少しでもある他部門とチームになって出していくことが必要になってきます。

 

課題を見つける、処置をする、終わりでなく、対策を出すステップは別の仕事としてチームで時間を取り、考えるという仕事の時間を設定することが必要なのです。

(他部署の能力のある人たちの知恵を借りる、問題解決になれる時間を取る)

 

 

ここを飛ばしてしまい製造部に対策まで期待するとやはり処置までで終わってしまい、間接業務が増えただけとなり、続かないとなってしまうのです。

 

なので、はじめ製造部は処置し、問題を書き残しておくと(リストを作る)

 

他の部署が解決を手伝ってくれるらしい(楽になる)というくらいのイメージで問題を見つけるメリットを理解してもらい、チームで時間を取って解決する仕組みを取り入れる、というのがやりやすいと思います。

 

まとめると

 

・対策、問題解決を製造部の仕事として定義する。

(対策に充てる時間というリソース確保と教育、そして評価項目(KPI)を作る)

 

・処置と対策の違いを会社として明確にする。

問題解決の方法の理解と教育

・フォーマットを決める

再発防止の問題解決ステップにそったフォーマットで記入するだけの状態にする

 

・問題解決のチームを作る(製造部だけでないチーム)

製造部以外にも責任を持たす

 

・1週間に1回でも良いので定期で発生した問題に対しての対策を出す会議、時間を取る

(トヨタでは朝会、weekly会議がその時間となっている。出席する役職も決める)

 

・製造部だけではない、共通の目標を決める

問題は常に起こっているはずなので、対策まで終わるという件数をチームごとまたは会社として決める。他責にならないKPI設定。

 

 

そこまでやって、再発防止=問題解決というのが当事者の中で、仕事になっていき、こうしなければいけない、こう進めるというのが、他部署や上司に指導されながら覚えていく土台ができます。

 

再発防止は見る目のある人と一緒にやらなければいつまでも経ってもうまくならないので、製造部の能力不足を組織でどうカバーするように設計していくか、という話をしてきました。

 

長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。